原発通信 241号2012/06/22発行
鹿児島県知事選告示 向原祥隆さんの勝利を! 【再稼働決定後、初の原発立地県での知事選。原発再稼働の是非を含むエネルギー政策が最大の争点】 「中途半端な教養は、無教養よりたちが悪い」──ピーサレフ 野田政権の暴走が止まりません。消費税増税をめぐって、小沢一郎グループとの亀裂が深まり民主党分裂かと問いただされています。そんななか、先週6月13日付毎日新聞に佐藤優氏が「異論反論」というコーナーで玄葉外相が「適者生存論」――「種」の政治思想を展開したことについて、【「種」の政治思想は危険だ】と題した一文を寄せています(下記)。 勘違いしている連中が目立つ野田民主党政権です。「決められない政治」から「決められる政治」だとか、「私の責任で大飯原発3,4号機の再起動を」とか、「原発を稼働させないと日本人は集団自殺に」とか、尋常では考えられない発言が次々に出てきます。 先月末に、玄葉外相(1964年生まれ)が母校上智大学で講演し、その際、適者生存論を展開して野田政権を持ち上げたとのことです。このことに関して佐藤優氏は【日本の外相が「種の政治思想」を公言することが、国際的にどういう意味をもつのか、氏はわかっているのだろうか】と問います。そして、19世紀ロシアの思想家ピーサレフの言葉を引用して言います。「中途半端な教養は、無教養よりたちが悪い」と。 「玄葉氏は政治思想史を真面目に勉強したことがあるのだろうか」と佐藤氏は問うていますが、玄葉外相のみならず、野田首相(1957年生まれ)はじめ、原発再稼働最重要連帯責任閣僚の面々にも当てはまることと思います。また、昨日付毎日新聞夕刊「特集ワイド:いかがなものか 決めるだけの政治」=民主党の増子輝彦・参院議員(福島選挙区)と慶応大経済学部の金子勝教授のインタビュー記事を紹介しますので、あわせて読んでいただければと思います。 ▶原子力委、大綱策定を中断=「勉強会」問題で-正式決定 このような状況に追い込んでいけるのも、脱原発を望む多くの声があがっている成果だと思います。さまざまな方法、手段を使って、粘り強くより鮮明に、脱原発社会の声を挙げていきましょう。 【内閣府原子力委員会(近藤駿介委員長)は21日の会合で、今後の原子力利用の基本方針となる「原子力政策大綱」の策定会議について、当面審議を中断すると正式決定】 報告書に正当性はない ▶原子力委:秘密会議の検証なく報告書…核燃サイクル選択肢 しかし、原子力委員会、一方では、強引に何が何でも金づるだけは確保しておこうとなりふり構わずです。 【原発の使用済み核燃料を再利用する核燃サイクルについて、内閣府原子力委員会は21日、原発依存度を下げる場合、使用済み核燃料をすべて再利用する現行の「全量再処理」ではなく、すべて地中に埋却する「全量直接処分」や、再処理と直接処分の「併用」が適切とする報告書をまとめた。核燃サイクル見直しを巡っては原子力委・小委員会の公開審議の裏で、原発推進派だけの秘密会議が重ねられていた問題が発覚、内閣府が検証を進めている。一部委員は検証終了まで報告書決定をしないよう求めていた。検証を待たずにまとめられたことで、報告書は正当性に疑問】 ▶にじむ核燃再処理維持 原発依存度3案報告書 【どの選択肢がいいか直接的な意見は示さなかった。ただ、将来、政策が見直されてもいいよう備えることを推奨したり、急激な政策変更は再処理工場を受け入れた自治体との信頼を崩すことへの懸念を示したりしている。その点で、使用済み核燃料は併存方式を採るのが望ましいと受け取れる。 併存方式なら、再処理工場は残り、もんじゅも基本的には存続する。政策変更に伴う混乱は避けられる。ただし、東京電力福島第一原発事故を受けた核燃料サイクル政策の見直し議論は、これまでの政策とほとんど変わらないことになる】 しかし、「もんじゅ」をまだ動かせると思っているところ、これはもう科学でもなんでもありません、“原子力教徒”のカネに目がくらんだ妄想そのものです。個人の妄想ならそれだけで済むのですが、単なる新興宗教の域を超え、権力とカネを握っているマフィア組織というところが問題なのです。 ▶「もんじゅ」の装置を国が検査 【おととし、核燃料を交換する装置が原子炉内に落下するトラブルがあった高速増殖炉「もんじゅ」で、新たに作り直した装置が正しく動くかどうかを確認する国の検査】をしたとのこと】 21日午前11時前から【検査は1時間ほどで終わり、装置に問題はないと判断】 なるほど、上記のことと連動しているのですね。 ▶社説:東電社内事故調 自己弁護でしかない 【目的に掲げられた「原因を究明し、原発の安全性向上に寄与するため、必要な対策を提案する」姿勢がまったく感じられない。期待されていたのは、事実を積み重ね、事故の真相に迫り、責任の所在を明らかにすることだったはずだが、対応のまずさの指摘に対する釈明ばかりが並ぶ。そのような企業に、これからも原発の運用を託せるのか疑問だ。 例えば、政府の事故調査・検証委員会は昨年12月の中間報告書で、1号機や3号機の冷却装置の操作の習熟不足などを問題点として指摘したが、報告書は「その後の対応に影響を与えたとは考えられない」などと反論する。だが、別の対応を取っていた場合に事態がどう変わっていたかの考察はない。津波の想定も「専門研究機関である国の組織が統一した見解を明示し、審査が行われることが望ましい」と他人任せにする。】 そして、「菅リスク」だなどという造語まで登場した「菅にすべて押し付けてしまえ」という流れについて、 【菅直人首相(当時)ら官邸の介入については「無用の混乱を助長させた」と断じた。第三者が指摘するなら分かるが、当事者が言うと、責任逃れにしか聞こえない】と断じています。菅が大声で怒鳴ったとか言い、吉田所長も憤ったというなら、その時の映像を「音付き」で公開すべきである。これだけのことを起こしておいてプライバシーを持ち出し拒むということ自体いかがわしいことがあるからです。 【事故時のテレビ会議は録画されていた。検証作業には欠かせない資料だが、「プライバシーの問題が生じる」ことなどを理由に公表を拒んでいる】 ▶発送電分離:議論大詰め 「法的」「機能」2択に グローバル化、市場原理主義の旗振りの伊藤元重東大教授が委員長職についています。 【経済産業省の電力システム改革専門委員会(委員長・伊藤元重東大教授)は21日、大手電力会社の発電と送配電部門を分ける「発送電分離」について詰めの協議を行った。委員会ではこれまでも、送配電部門を子会社化する「法的分離」と、送配電の運用を中立機関が担う「機能分離」の2案からの絞り込みを目指し、それぞれの案を支持する委員が熱心な議論を交わしてきた】 ▶福井・大飯原発:再稼働決定 知事「浜岡、影響受けぬ」 安全性を疑問視/静岡 【川勝知事は、安全性の判断に関与した経済産業省原子力安全・保安院が「やらせ問題」などに絡んでいたことで信用を失ったと指摘。「安全であると断定するのには相当に無理がある。(電力が不足するとした)関電によって押し切られたという感じがある」と述べた。 一方、中部電力浜岡原発(御前崎市)については、【(今回の再稼働決定プロセスは)あてはまるとは思わない」と述べ、影響は受けないとの認識】 【『明日は我が身』という想像力を持たない政治家はだめだ」と述べ、「私どもは安全性を最優先する」と強調】 忘れずに、貫き通してほしいものです。 ▶「ヨウ素剤」福井市全域配備へ 【原子力発電所で事故が起きた際に甲状腺の被ばくを避けるための、「ヨウ素剤」について、福井市は、市内全域の40歳未満の住民分を備蓄する方向で検討を始めました。 福井市は、敦賀原発から30km圏内に入る越廼や殿下など、4地区の40歳未満の住民、500人分を備蓄することを決めていました。しかし、国がヨウ素剤の服用などの対策を準備する範囲を原発から50Km圏内を目安にする方針を示したことから福井市は備蓄をする対象を市内の全域に拡げる方向で検討】 ▶四電の計画停電案 判明 【四国電力は、四国4県を7つのグループに分け」、自治体の主な施設や警察、消防、鉄道、航空などの設備は、原則、除外する」が「医療機関については救急の搬送先に指定される病院などは除外するものの、一部は、計画停電の対象】と。 停電が嫌なら伊方原発再稼働を認めろとの恫喝です。 原子力ムラ 今日の「No problem!」 何が起きても、あっても彼らはすべて「ノープロブレム!」 ▶伊方原発 町長も再開に前向き 【伊方町の山下和彦町長は、愛媛県の中村知事が、再開が必要だとする考えを示したことについて、「知事の発言を否定する理由はない」と述べ、再開に前向きな姿勢を示しました】 【「原発がこれまで町内の雇用や経済活動を大きく支えてきた経緯を考えると」】、安全性などといっていたら飯が食えなくなるだろうと言っていることと同義です。 ▶島根原発特別な保安検査終わる 【島根原子力発電所で行われていた国の特別な保安検査が21日で終わり、原子力安全・保安院は、点検漏れの再発防止策や東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえた緊急の安全対策などが「適切に進捗している」と評価】 ▶島根原発:事故発生時、知事「責任付いてくる」 具体的説明避ける/島根 【溝口知事は責任の取り方について、「ちょっとここではお答えするには時間がありません」と回答。具体的説明を避ける一方で、「一番大事なことは責任者として最善を尽くすこと。簡単に一言で言えない」と】 この知事、一口で言えないというのが「自論」だそうです。「すぐに答えられない、簡単では言えない」――これもいかがわしいことをやっているときに使われる方便のひとつです。 ▶若狭湾で天正大津波「なかった」 関電など追加調査結果公表 【関西電力、日本原電、日本原子力研究開発機構の3電力事業者は21日、若狭湾周辺で実施した津波堆積(たいせき)物の追加調査の結果を公表。「1586年の天正大地震による大規模な津波はない」としていた従来の評価を覆す痕跡はなかったとし、経済産業省原子力安全・保安院に報告した】 ▶日立:リトアニアの原発「受注」 福島事故後では初 【リトアニアの議会は21日、同国が計画しているビサギナス原発の建設事業権について、日立製作所と契約することを賛成多数で承認した。 経済産業省資源エネルギー庁の原子力政策課は「正式受注と言っていい」と歓迎】 これを見ても、カネしかないということです。 ▶特集ワイド:いかがなものか 決めるだけの政治 原発事故、責任取れるか 【「決められない政治」から「決められる政治」へ、と言えば聞こえは良い。ならば決められれば何でもいいのか?】と記者は問います。 【首相は大飯原発再稼働の方針表明の記者会見でわざわざ福島県民に言及し「福島県民が原発の再稼働に『複雑な気持ち』をもたれていることはよくよく理解できる。(略)しかし、人々の日常の暮らしを守るという責務を放棄できない」と説明しました。福島県民の気持ちは「複雑」ではない。単純明快。「二度と事故を起こすな」「ノー・モア・フクシマ」。それだけです】とは、民主党の増子輝彦・参院議員(福島選挙区)です。 【首相は所信表明演説で「福島の再生なくして日本の再生はない」と言った。あの言葉で福島の人々の折れかかっていた心は奮い立ちました。我々福島県選出の国会議員6人は4月、「再稼働は慎重に」と申し入れるため、首相に面会を求めました。しかし会っていただけなかった】 【野田首相は「地震や津波が起こっても、原発事故を防止できる対策と体制は整っている」と会見で明言しましたが、実際は何の安全も確認されていない。福島の原発事故はまだ収束してはいないし、県外避難した子供の数は1万6000人に上り、今なお多くの人が苦しんでいます。 原発事故以前ならば、再稼働の手続きは、福井県知事やおおい町長の同意で十分だったでしょう。しかし事故が起きたら一地域の問題で終わらないというのが、今回の教訓です】 何も変えられないまま 【高齢化の進行による社会保障のひずみというツケを先送りしただけで、「変えられない政治」はそのままである】と断じるのは、慶応大経済学部の金子勝教授です。 【若者世代で単身化傾向が強まり、しかも若い人の非正社員化が進んで、結婚しない、できない人が増えている。年金にも加入できないこの層が今後、生活保護にどっと流れてくる。少子高齢化という人口構成だけでなく、家族や雇用の形態の変化によって、現状の社会保障制度では対応できなくなるばかりか、制度そのものが壊れていくのだ】 【そうした持続可能でなくなった制度を変えるという、開いた穴を塞ぐ作業をすべて「棚上げ」して、「決められない政治」からの脱却だと胸を張られても困る】 【日本の不幸は、政治家もメディアも新たな国家の形を構想する思想を持たず、経済で米国をキャッチアップした先のモデルがないから「守り」の姿勢になってしまうことだ。それは、後戻りでしかない。制度疲労を起こし、失敗した過去に立ち戻っても、日本の未来はない】 ▶「種」の政治思想は危険だ 寄稿 佐藤 優(毎日新聞2012年6月13日) 5月28日、玄集光一郎外相が母校の上智大学で講演を行った。外務省のホームページによると、学生からの「若い人たちにメッセージがございましたら、一言お願いします」という要請に応えて、玄葉氏はこう話した。 「私が今、大事だなと思っているのは、一つは脱ポピュリズム。ご機嫌取りをあまりしない政治家が一つ。それともう一つは、ダーウィンの進化論ではありませんが、これはカトリックの考え方とちょっとどうかということもあるかもしれません。どういう種が強い人か。強い種が強い人ではない。どういう種か。時代に適応して変わり続ける種だ。だから、やや改革志向というのが強いのかなと。そして、やはり安定した政権でないと私はいけないと思う。今、求められているのはそういう政権であって、野田(佳彦)政権をそのようにしたいと思っていますし、一般論で言っても、そういった政権というものを今後日本が持ち続けることは非常に大切。そうすればスピード感のある政策というのはできると思うのです」 ここに、ダーウィンの進化論とのアナロジー(類推)で政治を捉える玄葉氏の思想が端的に現れている。政治の主体は種だ。ここでは、人という種が想定されている。氏の発言を素直に解釈するならば、時代に適応できる強い種が行うポピュリズムを排したエリート主義による政治が求められているということになる。 6日、外務省で行われた会見で、「週刊金曜日」の伊田浩之記者が「『種』というのは、へたをすると優生思想、ナチズムの思想につながったり、日本でも戦前、断種法というのがあったが、そういった極めて危険な受け取られ方をする可能性がありますので、ここで大臣の真意をしっかりお聞かせいただければと思います」とただした。 これに対して、玄葉氏は「ダーウィンの話だということで、カトリックとどうかという話をしたのであり、また、ダーウィンがまさに、いわゆる生き残っていく種というのは、強い種とかということではなくて、時代に対応していく、変わり続ける、そういう種であるということを言ったと。つまり、決してナチス等々に行き着くような話では全くなくて、これからのあるべき政権を考えたときに一定の改革志向というものを、やはり常に持ち続ける必要があるのだろう」と答えた。 人種主義と親和的な言説 重大性を理解していない 玄葉氏は、レトリック(修辞)で切り抜けようとしているが、時代に対応して生き残ることができた種が結果として強者になる。氏の言説は種を主体とする適者生存論で、ナチズムを含む人種主義と親和的だ。19世紀ロシアの思想家ピーサレフは「中途半端な教養は、無教養よりたちが悪い」と述べた。玄葉氏は政治思想史を真面目に勉強したことがあるのだろうか。日本の外相が「種の政治思想」を公言することが、国際的にどういう意味をもつのか、氏はわかっているのだろうか。(一部改行しました) ▼第19回 ソフィア・ルネッサンス連続講演会玄葉外務大臣講演「これからの日本外交」平成24年5月28日(月曜日)(於 上智大学) | ||