原発通信 284号2012/08/29発行
![]() 「新しい酒は、新しい皮袋に」。これからの社会のグランドデザインをどう描くのか 「エネルギー・環境戦略」策定に関する国民の声を検証するため政府が設けた専門家会議は、この間行なわれた調査結果を発表し、脱原発を志向する人々が半数にも上り、「期待」が外れたようです。手法に問題がある、調査に偏り、若年層の意見が少ない、これから一気に結論を導き出すのは危ないなど、あれやこれや「理屈」をつけて脱原発という流れに抗する「専門家」の姿も見られます。近藤駿介原子力委員長が「最後はコントロールできる」などと言ったようにさせてはなりません。 そんななか野田首相、原発依存度を将来ゼロにすべきだとの意見が出たのに対し、「安全保障の問題が絡むので、簡単に原発ゼロとは言えない」(下記)と、本音をちらり。そう、プルトニウムをどうするかという大問題があります。 原発を稼働させないと、電気代が高くなり、企業は国外に出ていってしまうなどと「原発ゼロシナリオ」に「疑問を呈した」日本商工会議所の岡村正会頭。しかし、企業の移転は電力の問題ではなく、円高の影響が大きいと以前から言われていました。海外移転は何も3.11以降に起こったわけではないということを見れば明らかです。毎日新聞特集ワイドで、民間事故調委員長を務めた北沢宏一氏は「電気代が安ければ安い方がいい、という既存の価値観に基づく経済モデルから」の発想だと一蹴。「値段が高くてもクリーンで安全なエネルギーが良いという新たな価値観を国民が選べば、採用する経済モデルも変わり、結論は変わります」といいます。 雇用についても「環境エネルギー政策研究所」の松原弘直氏によれば、「FIT導入で今年度の国内投資額は約1兆円に上り、約10万人分の雇用効果があるだろう」といいます。 ともあれ、これからの社会のグランドデザインをどう描くのかという問題です。そこにこそ民主党が掲げる「政治主導」が試されるときなのです。 と、書いた後、ネットを見ると、とんでもないことをまた保安院が企んでいるという記事が出ていました。 なんと、「原発直下に地盤をずらす『断層』があっても原発の運転を一律に禁止せず、継続の可能性を残す新たな安全評価基準の導入」を企んでいるというのです。ウルトラCというべきか、ここまでやるか、やっぱりその手を使うかと、驚きです。むちゃくちゃといってもいいでしょう。いったいこの国はどこへ行こうとしているのでしょうか。 8月27日放送テレビ朝日報道ステーションで浅田次郎さんへのインタビュー、ネットで見ました(下記)。浅田さんの「未来に対して責任を持たなければいけない」との意見に、同感です。 ▶原発、断層ずれても運転可能に 保安院が新基準導入へ 【原発直下に地盤をずらす「断層」があっても原発の運転を一律に禁止せず、継続の可能性を残す新たな安全評価基準の導入を、経済産業省原子力安全・保安院が検討していることが28日、分かった。 保安院は従来「活断層の真上に原子炉を建ててはならない」との見解を示していた。新基準では、これまでは活断層と判断される可能性があった一部の断層について原発の直下にあっても、ずれの量が小さく原子炉建屋などに影響が生じないと評価されれば原発の運転継続も可能になるとみられる】 一体全体、何を考えているのだ!!と叫びたくなるようなこと(いや、声を大にして叫ばなければなりません!)を保安院は企んでいるとのことです。語るに落ちたとはこのことです。 ▶エネルギー・環境戦略:政策議論 民意反映、手法に課題 調査対象に偏り 【国民の意見の調査についても対象が中高年の男性に偏り、女性や若い世代の割合が低い点も挙げ「(脱原発依存に向けた)具体策を整理した工程表を作り、国民が参加して定期的に戦略を見直す必要がある」と指摘した。主要政策に民意を取り入れようとした政府の試みは多くの課題を残した】 自分たちに都合のいい結果が出なかったがゆえの話です。偏りがあるだの、なんだのと。 【固定電話加入世帯から対象を抽出した討論型世論調査では、携帯電話しか持たない若年層が参加の機会を奪われた可能性がある】 との指摘、なるほどそうかもしれません。 【委員から「2030年以降の社会を考えるのに若年層(の声)が少ないのは問題」(小林傳司大阪大教授)との批判も出た】 産経新聞によると、【早大の田中愛治教授は、討論によって「多数派の意見が強まる傾向がある」と、運営上の問題点を提起した】【「データから政策を一気に導き出すのは危ない」(田中教授)】とも言っているそうな。 そして、ついに本心というか、本音というか野田首相、原発は、安保問題だと発言。 ▶原発ゼロ、簡単に言えぬ=野田首相「安保絡む」 【野田佳彦首相は28日夜、都内の焼き鳥店で衆院当選1回議員15人と会食した。原発依存度を将来ゼロにすべきだとの意見が出たのに対し、首相は「安全保障の問題が絡むので、簡単に原発ゼロとは言えない」と否定的な見解を示した】 ▶「脱原発、過半の国民希望」 政策議論、専門家検証 政府、新戦略反映へ 【政府が2030年の原発比率で三つの選択肢(「0%」「15%」「20~25%」)を示したことについて「国民は(原発など)各電源の割合よりも、どういう経済社会を築くかに関心が高い」と、国の将来像を示すよう注文した】 ▶使用済み核燃料:直接処分の研究開発費を要求へ 文科省 【文部科学省は28日、原発の使用済み核燃料を再処理せずにそのまま地中に廃棄する「直接処分」の研究開発費を13年度概算要求に盛り込む方向で検討していることを明らかにした。福島第1原発事故で、再処理ができないほど損傷した使用済み核燃料が発生したことや、政府の原子力政策見直しで直接処分が採用される可能性が高まっていることを受け、準備を急ぐ必要があると判断した。関連費用の計上は、文科省では初めて】 【一方、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)など高速増殖炉の研究開発について、文科省は「政府のエネルギー・原子力政策の見直しを踏まえて予算を要求する」との説明にとどめた。担当者は「政策の方向性が『もんじゅの運転をやめる』というなら、それに従う」と述べた】 ▶特集ワイド:原発ゼロの世界/下 メリットは「ある」 【日本商工会議所の岡村正会頭は22日、「原発ゼロ」に反対する意見書を官邸で野田佳彦首相に手渡した後、財界人としては異例の時間を割いて記者団に繰り返し訴えたという。原発ゼロ→電気料金の上昇→企業の海外移転→産業空洞化による失業率の上昇──これが経済界の恐れるシナリオだ。 しかし、福島原発事故独立検証委員会、いわゆる「民間事故調」の委員長を務めた北沢宏一・科学技術振興機構顧問は試算に否定的だ】 【だが実際には、企業の海外移転については円高の影響の方がはるかに大きい。再生可能エネルギーは原子力に比べ、約5倍の雇用吸収力があるという。全体では、むしろ雇用は増えるとみています」】 【「それは、電気代は安ければ安いほうがいい、という既存の価値観に基づく経済モデルから導いたもの。値段が高くてもクリーンで安全なエネルギーが良いという新たな価値観を国民が選べば、採用する経済モデルも変わり、結論は変わります」 まずは国が大方針を決めることが先であり大切だというのだ。】 【「FIT導入で今年度の国内投資額は約1兆円に上り、約10万人分の雇用効果があるだろう」とはじくのは、脱原発を掲げるNPO法人「環境エネルギー政策研究所」の松原弘直・主席研究員だ】 【「ひとたび導入すれば燃料費がほとんどかからないので、運用コストは小さい。その点では原子力や化石燃料よりメリットが大きいほどです」。経済効果についても「設備投資を増やす効果が見込めるうえに、原子力と違って分散型なので、広く雇用が生まれやすい」と語る】 【「再生可能エネルギーの普及でドイツでは2010年までに、直接雇用が約30万人、間接雇用を含めると約100万人が生まれたと報告されています」】 【サーチャージ(再生可能エネルギー発電促進賦課金)だ。ドイツでは、これが年々上昇して家計を圧迫しているという。日本では大丈夫か】 【環境省の試算によると、買い取り制度の下、30年までに再生可能エネルギーの割合を2~4割程度まで引き上げた場合、現在1キロワット時0・4円程度のサーチャージは30年までに最大約2円まで上がり、それ以降は徐々に安くなっていくという】 【「電気料金を引き上げる要素としては、化石燃料費の高騰のほうが大きい。再生可能エネルギーの普及は、化石燃料の削減効果が望める」と松原さん】 ▶汚染土処分場:候補地の報道受け、反対陳情書を提出 鹿屋市長に市民団体/鹿児島 【鹿屋市の市民団体が27日、市役所を訪れ、嶋田芳博市長宛てに反対の陳情書を提出した。…陳情したのは、大隅地区住民らでつくる「脱原発・大隅みんなの会」(上山洋二代表)など3団体の代表ら6人。…上山代表が「食糧供給基地としての大隅半島の自然を子孫に残すため、放射能汚染土や放射性廃棄物の処分場設置は断固反対」とする陳情書を手渡し、市側は「嶋田市長も反対の姿勢」と応じた】 ▶IPPNW世界大会:タイパレ氏「核被害に治療法なし」 禁止条約、早期実現を/広島 【国際NGO「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」の共同会長を務めたバップ・タイパレ元フィンランド厚相が毎日新聞のインタビューに応じた。「核被害は起きてしまえば、『治療法』は存在しない。だから『予防』しか道はない」と語り、核兵器禁止条約の早期実現に向け、各国に国際的な圧力を強めることが必要との認識を示した】 ▶原発事故・宮城集団賠償請求 「2億円被害」に支払い3万円 【宮城県の15の個人・法人が6月下旬、東京電力に行った福島第1原発事故による営業損害などの集団賠償請求で、東電は計2億1635万円の請求に対し、現時点で3万円しか支払わない方針を示していることが28日分かった。事故と損害などの因果関係を十分に調べていないケースもあり、請求者代理人の県原発被害弁護団は「あまりに誠意に欠ける」と批判している。 賠償を拒否された宮城県富谷町の淡水魚養殖業者は震災後、東京の築地市場から「原発事故で宮城の淡水魚の注文がなく、出荷しなくていい」と言われた。主力のニジマスの出荷額は震災前、年間約250万円だったが震災後は1万円に落ち込んだ。 こうした経緯を記した文書も請求時に提出したが、東電側は「事故と損害の因果関係は確認できない」と回答。養殖施設が蔵王町にあることも記載したが、東電側は「(富谷町に近い)鳴瀬川では淡水魚が出荷制限されていない」と拒否理由を挙げ、蔵王町の河川には触れなかった。 放射線の影響を心配して野菜の栽培をやめた角田市の農家には「自主廃業は自身の自主的な判断で、事故とは無関係」として補償を拒んだ。…請求に含まれる弁護士費用について「東電は窓口を開放しており、弁護士に依頼する必要がない」とする回答もあった】 責任、誠意、信義、道義…、すべて無縁の会社ということです。こんな会社が…と、情けなくなります。 ▶放射性セシウム:福島原発20キロ内、魚23種基準値超え 【今年3~8月に福島第1原発から20キロ圏内の海で採取した魚介類の検査結果を発表した。検査した55種のうち、コモンカスベやヒラメなど23種で放射性セシウムの最大値が一般食品の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超えた】 先日は、ホットスポットのせいにしていましたが、ずいぶんとホットスポットは「多い」のですねと言いたくなります。これはポイントというより、面的な汚染と考えたほうが自然なのではないでしょうか。 ▶福島第1原発事故 県循環検討委、放射能調査重点事項にキノコ類/新潟 【充実した調査にするために専門家の意見を聞く「放射性物質の循環に関する実態調査検討委員会」(委員長=今泉洋・新潟大工学部教授)の2回目の会合が27日、新潟市内で開かれた】 【事務局は初回の提言を受け、阿賀野川水系の淡水魚や、タケノコやキノコ類、乳幼児用ミルクなどの放射性セシウムの有無や濃度の調査結果を報告。今年5月には魚沼市で捕獲されたツキノワグマの肉から1キロ当たり放射性セシウム濃度が134ベクレル検出されたことなどを挙げたが、委員からは動物は移動するため、様子を見る必要があると指摘された。 今後の監視重点項目は、継続的な調査の必要性や、キノコ類の調査、放射性セシウムがどう分散するかを把握することなどが提言された】 ▶福島第一事故 安全装置 ベント妨げる 【昨年三月の東京電力福島第一原発事故で、早い段階で原子炉への注水に向け、ベント(排気)をしようとしたのに、配管の途中にある安全装置の設計が悪く、対応が遅れる大きな原因になっていたことが、東電の社内テレビ会議映像から分かった。放射能を閉じ込めるための安全装置が、逆に事故を深刻化させていたことになる】 これは、先日「NHKスペシャル メルトダウン連鎖の真相」で報じられていたことで、公開されているテレビ会議映像でも確認されたということです。 ▶現代をみる:ノンフィクション時評 8月 原発事故と「受忍論」 本通信276号の「寄せられた情報」にもありました『「東京電力」研究 排除の系譜』です。 【ジャーナリスト・斎藤貴男(54)による『「東京電力」研究 排除の系譜』(講談社)が読ませる。 責任追及とともに急がれるべきは、被害者への補償だ。これからの訴訟は膨大な数に上るだろう。斎藤は、司法でまかり通る「受忍論」から警鐘を鳴らしている。…たとえば東京大空襲のように、戦争で被害にあった国民や遺族が国に補償を求めて訴訟する。すると司法は「戦争でみんな被害にあった。だから、みんなでがまんしなければならない」という判断をしばしば下す。これが「受忍論」だ。…斎藤はこの受忍論が東電への損賠訴訟に転用されるとみる】 作家・浅田次郎に聞く “原発と日本人” 過去と現在と未来、これを正しく見つめないといけない。 そこには人間の情緒的なものの入る隙間はないと思います。 浅田次郎さん、古舘さんと同世代の私、お二人の話を聞きながら、まったくその通りだと思いました。 浅田:そうですね、僕はちょうどこの、小学校一年生科二年生ぐらいの事にこの東京タワーが建ったんですよ。で、建ってすぐ上ったのを記憶しています。それで、60になった時に、還暦の時にスカイツリーができたんでね、ほぼ僕の人生と重なりますね、 古舘:自分の、もう亡くなりましたけれども、親の世代が戦争に行き、自分たちが辛い思いをしているから、どんどん豊かな時代にね、「物食べろ」と「おなかいっぱい食べろ」と言うふうに、楽させてもらってきたというところがね、あるんで、すごく今のがね、この歳になって今、お話しして下さったことは骨身にしみるんですよね。これ、じゃあ、自分が受けた恩恵をどうやって次の世代に返すか?って、「出来てないだろお前!」っていうか、原発の事に関しても、そういう意識で考えるとたまらなくなるんですよね。 浅田:子どもが、もしかしたら犠牲になるかもしれない。で、その事に対してね、「子どもがかわいい」とか「子どもに罪がない」っていう、そういう情緒的な考え方では解決できないと思います。つまり子どもというのは、かわいいとか罪が無いとかいう以前にね、「未来そのものだ」というふうに思わないと、だからこれに対して現在を生きる自分たちっていうのは、この「未来に対して責任を持たなければいけない」っていう気持ちを持たないとね、克服することはできないと思います。 この厳しい現実というものを子どもたちに引き継がせてはならない。申し送ってはならないという、強い意思によって日本は復興したと思うんですよ。 浅田:後20年経てば、同じようにどこかが劣化して、またそれに一まわり大きな石棺を被せるという日がやってくるんでしょう。で、これはもう、伝説の作業ですよ。ま、一言で言えば、「つくること自体に目的がある」そういう行動っていうのはあっちゃいけないんですよね。 しっかりとした目的があって、それに物がつくられなければいけないんだけれども、そうではない目的外の、本来の目的外の目的によって、つくられていっている。そうとしか考えられないですよね。 長きにわたって私たちの日本というのは、土木国家体質っていうんですかね、なにかを、不要なものをつくること、つくること自体に意味がある。というような体質を持っていると思います。どうしても雇用のためだとか、地域活性化のためにつくると、あるいは他の利権のためにつくるというような事があるのならば、ピラミッドでも造った方がいいですよ。 全く不要なものを造る。そうしたら害はないでしょ?小児の甲状腺がんの発生率っていうのが右肩上がりに上がっている一方。で、それも縦に遺伝して、生まれた、全くなんの、時間の隔たりを経て生まれた子供にも発症する。それがどんどん増え続けている。 *浅田さんはチェルノブイリを訪ねた時のことを毎日新聞5月10日付夕刊に「灰色のマトリョーシカ」と題して書いています。本通信208号で紹介しました。 ▼原子力ムラ 今日の「No problem!」 ▶伊方・志賀原発:活断層連動時も「耐震問題ない」 【原発周辺にある複数の活断層が連動して動いた場合に揺れが従来想定を超える四国電力伊方(愛媛県)、北陸電力志賀(石川)の2原発について、両電力は28日、原子炉など重要施設の耐震安全性に問題はないと経済産業省原子力安全・保安院の専門家会合に報告した。会合で異論は出ず、保安院は近く了承する方針】 予想通りというか、彼らの「会合」で異論などでるわけがありません。まさに、『原子力ムラの「No problem!」』の典型です。 ▶福島第1原発:4号機の未使用燃料1本、腐食や変形なし 【東電によると、集合体を分解した際に、燃料棒を束ねる金属部分から最大約2センチの小石が10個程度見つかった。建屋が水素爆発した際に混入したとみられる。小石の放射線量は毎時1ミリシーベルト。燃料を調べた作業員の被ばく線量は最大で0.2ミリシーベルトだった】 だから、4号機のプールに「保管」されている他の使用済み燃料も大丈夫と言いたげな発表です。この使用済み核燃料取り出しこそ難関、難問だと小出氏らは以前から指摘しているところです。 「大衆は断言を求めるので、証拠は求めない。」 橋下、大阪維新の会周辺が騒がしいです 大阪の橋下、何をしたいのかと本通信282号でも書きました。毎日新聞29日付文化欄にフランス文学者鹿島茂氏が連載「引用句辞典」で「政治家・橋下徹」と題して、アナトール・フランス『エピクロスの園』(大塚幸男訳・岩波文庫)を引用し、論じています。タイトルは「確信と断言を大衆は求め/懐疑主義は影を潜める」。 まず、アナトール・フランス『エピクロスの園』の引用から。 【この男は常に大衆を味方に持つであろう。この男は宇宙に確信を持っているように自分に確信を持っているからだ。それが大衆の気に入ることなのである。大衆は断言を求めるので、証拠は求めない。証拠は大衆を動揺させ、当惑させる。大衆は単純であり、単純なことしか理解しない。大衆に対しては、いかにしてとか、どんな具合にとか言ってはならない。ただ、《そうだ》、あるい《そうではない》といわなければならない。】 まず、小泉純一郎の手法から分析します。彼、小泉は自分のイメージをその都度、自在につくりあげたと。 【しかし、何よりも大衆をひきつけたのは、なんだかわからないが、やたらに「確信をもって」いることと、歯切れのよい「断言」を連発したことだろう。ここにおいて、大衆はようやく「わかりやすい政治家」「結果を出そうとする政治家」を見いだして喝采を送ったのである。その結果が自分たちの利益に反するものであることなどまったく意識に入れずに。 さて、民主党政権も三年となり、今秋か、さもなければ来年早々にも総選挙ということになりそうな気配であり、橋下新党、小沢新党を含めて、それぞれの政党や党派が選挙態勢に入りつつあるが、「大衆を味方」にひきつけるという点においては、橋下徹大阪市長はやはり一頭地を抜いている。「大衆は断言を求めるので、証拠は求めない」ものだからである。民主党の打ち出したマニフェストが全部空手形に終わった苦い経験などコロリと忘れて、有権者は橋下新党の目新しい政策に快哉を叫ぶかもしれない。 だが、そうした点ではたしかに有利だとしても、橋下新党には決定的な弱点がある。手駒がそろわないということである。】 といい、マスコミがはやし立てるようにはいかないのではと書き、自民、民主の痛み分けかと。しかし、「とりあえず現状で」という力が働き民主党の第一党という意外な答えが出るかもしれないとも。 そして、アナトール・フランスの面目躍如なのが『エピクロスの園』の「懐疑主義者」についての箴言であるとして、さらに引用します。 【われわれはわれわれの精神とは異なった具合に出来ている精神を持つ人々を危険人物と呼び、われわれの道徳を持たない人々を不徳漢と呼ぶ。われわれはわれわれ自身の幻想を持たない人々を懐疑主義者と呼ぶ、それらの人々はわれわれの幻想を持っていないかどうかを考えもしないで】 そして、最後に鹿島氏は、「私は、断固、懐疑を選ぶだろう」と結んでいます。 | ||