原発通信 293号2012/09/11発行
相次ぐ「不祥事」と「意味なき」労働が問うもの 最近、テレビ朝日の番組収録でスギちゃんという芸人が胸椎骨折という重傷を負い、休業を余儀なくされているとのことです。毎日新聞9月7日付夕刊に「なぜ続く テレビ局の不祥事」との見出しで、一文が掲載されていました。NHKから各民放まで、毎月のように何かが起きています。それはどうして起きるのかというと、今やほとんどの番組が制作会社任せだということにあるのではといいます。はやりの言葉でいえば、「アウトソーシング」。そう、下請けに回すということ。なかには丸投げというところもあるとのことです。 メディア論の上智大学教授の碓井広義さんは、次のように言います。 【背景に制作現場の構造的問題があるとみる。「数少ないテレビ局の社員が頭脳で、制作会社の人間は手足」という構図】があり、【「この仕事には何の意味があるのか考えさせてもらえないまま、命じられるままに仕事をしていることが大きな問題。さらに、ここ何年かの制作費の削減が人的、時間的な制約を与えている」と指摘】しています。 碓井さんの指摘は、何もテレビ局だけに当てはまる問題ではありません。市場原理主義が跋扈し始めたあたりから、じわじわと社会を侵食していきました。最小の投資で最大のリターンを追求していった先に待ち受けていたものともいえるでしょう。 これは間違いなく原発労働にも当てはまることです。 こうした労働を「疎外された労働」と呼び、そうした労働からの解放を求めた闘いもありました。時代を経ても何らその構造は変わることなく続いているのです。 * ところで、毎日新聞9月9日付余録:「あのころの人、どこへ行ったのかなあ」に以下の一文がありました。 【▲「世代間格差」とは、高齢者ほど払った分より多い年金を受給できるが、若い世代は払う保険料が多いという意味でよく使われる。年金には改革すべき点が多々あるが、そう言われたら年金に加入しない若者がますます増えそうだ▲しかし、年金の多寡で公平度を測れるほど人生は単純なものではない。ほとんどの人が高校に進学し、インターネットで好きな情報を得られる時代になった。世界のおいしいワインやチーズも食べられる。外国にも気軽に行ける▲格差をあおり世代間の断裂を広げてどうする。どの時代に生まれてくるのかは誰にも選べないが、どのように生きるのか、望ましい社会を実現するためにどのような政治にするのかを選ぶことはできるはずだ】 ▶原子力規制委:19日に発足へ 政府方針 【政府は、東京電力福島第1原発事故を受けた新たな原子力規制委員会を19日に発足させる方針を固めた。11日に関連政令を閣議決定する。委員長に就任する田中俊一・高度情報科学技術研究機構顧問ら委員計5人の人事は国会の同意が得られていないため、規制委設置法に基づき、首相の権限で任命する】 野田の強行突破です。しかし、NHKTVのニュースによると、規制庁が入るところには、通信設備等が間に合わないとのことです。 ▶経済界は“人気取り”と苦言 「原発ゼロ」へ反発 経済同友会の長谷川閑史代表幹事、「選挙が近いからといって、『原発ゼロ』を打ち出すようなことをやってもらっては困る」だそうです。 【「原発ゼロ」には、原子力政策を担ってきた地域からの反発も広がる。青森県六ケ所村は、政府の対応次第では、使用済み核燃料の受け入れを拒否することを決めている。政府の計画を大幅に前倒しする形で原発が稼働できなくなれば、日本のエネルギー戦略は行き詰まり、大きなツケを残すことになる】 自分に都合が悪くなると、それは「人気取り」だなどと批判します。確かに、それに乗っからないと「就活」に生き残れないという議員センセイはいます。そう、“小泉大劇場”“石原劇場”“大阪劇場”の時にも、その時々の流れ、風を読むのにだけは長けている人がおり、その流れに乗せられる人もいます。脱原発をそうしてはならないのは事実ですが。 六ケ所村から「持ち帰れ」と言われれば、もう各原発内のプールはいっぱい、そうでなくとも六ケ所村だってじきにいっぱいになります。産経の記者が動けば日本のエネルギー戦略がうまくいくような錯覚をもたらす記事ですが、内実は、どこもいっぱい、蓮池透さんが『私が愛した東京電力』のなかで言っているとおり、そのうち黙ってたって原発は稼働できなくなる可能性の方が大きいのです。そもそも、その前にもう私たちは、次世代に「大きなツケを残」してしまったのです。その反省もなく、よくこういうことを書くなと思います。さすが産経新聞です。 ▶政府、エネ政策公表延期 米が懸念表明 【野田佳彦首相は週内に決定するとしているが、めどは立っていない。背景には「原発ゼロ」に傾く日本の原発政策に米国が懸念を表明し、それを口実に抵抗する原発維持派の存在がある。「原発ゼロ」を何とか骨抜きにしたい原子力ムラの意図がうかがえる】 【クリントン米国務長官は八日、ロシア・ウラジオストクでの首相との会談で、日本の原発政策への「関心」を表明。首相は会談後、「(米国と)緊密に意思疎通しなければならない」と記者団に語った】 【日米両政府は原子力の平和利用を目的とした日米原子力協定を結び、日本に技術協力している。日本が原発ゼロを打ち出せば、米国の原発政策にも影響を与える。また、日本のメーカーと共同で原発を開発・製造している米国内のメーカーも影響を受ける。クリントン氏の「関心」は、協定を盾に内政課題に介入していると受け取られても仕方がない。 原発維持派は、核燃サイクル事業継続を条件に大量の使用済み核燃料を一時保管している青森県の反発も、原発ゼロを打ち出させないための口実に利用している】 【日米の原子力関係に詳しい吉岡斉九州大副学長は「クリントン氏のニュアンスはやや弱い懸念で、さほど重くない。むしろ日本の原発関係者が下心を持ち、過剰反応的に振る舞い原発維持の口実に使っている」と批判する】 政府事故調をつとめた吉岡斉さんには、もっと頑張っていただきたかったと思っています。もうひと踏ん張り、いや、最後の“ご奉公”として、再稼働阻止にまい進していただきたいものです。 ▶エネルギー・環境戦略:首相、週内に決める意向 米政府との調整に時間 【新戦略について首相は「党が示した『原発の新増設は行わない』『40年運転制限を厳格に適用』『再稼働は原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ』は取り入れたい」と述べた。一方「30年代ゼロ」目標への言及は避けた】 【首相が「30年代ゼロ」を明言しなかった背景には、米国の「関心」がある。 日米原子力協定は、使用済み核燃料の再処理によるプルトニウムの生産、保有を日本に認めている。核兵器の原料にもなるプルトニウムだが、核燃料サイクルを推進する日本は、原発の燃料として使う方針を明確にしているからだ。だが、原発ゼロを選べば、プルトニウム生産の根拠はなくなり、日米協定の前提が崩れることになる】 ▶岐阜県:敦賀原発からの放射性物質拡散予測 【岐阜県は10日、日本原子力発電敦賀原発(福井県)で東京電力福島第1原発事故と同規模の事故が発生した場合を想定した放射性物質の拡散シミュレーション結果を発表した。県内25市町(人口約157万人)で外部被ばく量が年間20ミリシーベルトを超える可能性があると試算。うち大垣市、関ケ原町、揖斐川町では同100ミリシーベルト超になる場合もあるという。放射性ヨウ素の甲状腺蓄積による内部被ばく量が7日間で50ミリシーベルト超とされたのは5市町だった】 ◇高濃度放射性物質飛来予想の自治体 《外部被ばく・年間20ミリシーベルト超》大垣市、関ケ原町、揖斐川町、岐阜市、羽島市、各務原市、山県市、瑞穂市、本巣市、岐南町、笠松町、北方町、海津市、垂井町、神戸町、輪之内町、安八町、養老町、大野町、池田町、関市、可児市、郡上市、多治見市、下呂市 《内部被ばく・7日間で50ミリシーベルト超》大垣市(旧上石津町)、垂井町、関ケ原町、揖斐川町、池田町 抗議行動の開催数を見ていると、岐阜県、9カ所と多いのです。 ▶東日本大震災:九州・山口・沖縄への避難、止まらず 3654人、半年で2%増 【東日本大震災に伴う九州・山口・沖縄への避難者は少なくとも3654人にのぼり、半年前より約2%増え、依然増加傾向にあることが毎日新聞のまとめで分かった。最も多いのは沖縄県の1001人(半年前比約1%増)で、全体の約3割。福島県からの避難者は1936人で5割超を占めた】 【福島からの避難者が最も多かったのは沖縄県の693人で、同県防災危機管理課は「沖縄までの飛行機代や家賃補助といった県の被災者支援が今年度から福島の避難者だけを対象にしたからでは」と分析。大分県への186人は沖縄、福岡に次いで多く、県被災者受入対策室は「福島県内のTOTO工場が被災し、社員を全国の工場に振り分けているのが影響していると思われる」と話した。また、長崎県の場合、福島からの避難者は子供を持つ家庭が多いという】 ▶特集ワイド:「なかったこと」で済ませない 【「急ごしらえで神をつくり、近代国家をつくり、戦争をして、負けたら神なんか最初からなかったことにした。このことは人が思うより社会に重い影響を与えたのです。経済にまい進できた時代はまだ良かった。経済がだめになると頼れるものがなくなり、今ではすべて自己責任と言われます。原発も今の社会のシステムも、敗戦を忘れようとした人々が死にものぐるいでつくってきたもの。それが今も私たちを縛り続けています。でも私がその時代に生きていたら同じことをしただろうと。だからすべての日本人の問題と感じられる。誰かを絶対悪にしない責任の取り方、語り方を私たちは発達させないといけないのだと思います」】 それを受けて、記者は言います。【<なかったことにされたもの>。それはきっと私たちが語らず、直視せず、避けてきたものたち。何のために死んだのか言葉すら与えられなかった者たち。戦争や戦後に今も縛られて生きている私たち】だと。 ▼原子力ムラ 今日の「No problem!」 ▶燃料集合体:294体でカバーに欠損の疑い 【経済産業省原子力安全・保安院は10日、6電力会社から、7原発13基の燃料集合体計294体で、金属製のカバーに欠損の疑いがあると中間報告を受けたと発表した。いずれも放射性物質の漏えいなどはなかった。保安院は原因や、燃料の健全性について電力会社に評価させ、近く発足する原子力規制委員会に報告させる方針】 しかし、これ、「目視」によるものだけです。目視で見逃されたものもあると考えるのが自然です。そんな「傷だらけ」のもので問題ないのでしょうか。 ▶IAEA:福島事故教訓の「行動計画」 評価活用は不十分 【東京電力福島第1原発事故を教訓に、安全強化のため国際原子力機関(IAEA)で採択された「行動計画」のうち、IAEAが加盟国の要請に基づき原発の運転状況などを評価するピアレビュー(相互安全性評価)がまだ十分に活用されていないことが、IAEAの報告書で明らかになった】 要は、やっていないということなのでしょう。今日も危ない原発が動いているという事実は変わりません。何事も起きないことを…。 ▼トンデモナイ話 ▶大阪維新の会:公開討論会 維新礼賛、まるで面接 「踏み絵」ブレーンも同情 現職国会議員ら、深まらぬ議論 【9日に開いた現職国会議員らとの公開討論会では、維新への賛辞が相次いだ。国政新党・日本維新の会入党のための「面接」と受け止めた参加者は、維新の方針にほとんど異論を挟まない。維新は「価値観が一致している」として参加者の大半の入党を認める方針だが、審査員役として出席した維新ブレーンの多くも首をひねる】 学校株式会社化を問われた石関貴史衆院議員(民主)は「私も賛成だ。おかしな学校はあとから規制する」と追随したそうです。 ちょっと待って。子どもたちは「品物」ではありません。「不良工場」でつくられた「不良品」だからといって、「返品」するようなものではないということが、この人はわかっていないようです。 要は、お調子もんが集まって、そうだ、そうだと声を挙げたということです。しかし、注意しなければならない連中であることは確かです。お調子者に乗っ取られないようにするにはどうしたらいいか。小泉・石原劇場にしてはならないのですが。二度目は悲劇だが三度目は喜劇であるとの言葉があります。今回は何度目…。と、この時は当然、都知事閣下なのですが、自民党総裁選にその息子が出るというのですから、傍観してはいられないのですが、さて、何から…。 ▶仮払補償金:東電から詐取容疑、組長ら逮捕 やはりというか、本物の「ムラ」から出てきました。騙されるほうが悪いのだという言い方もあります。すると東電は…。ということではなく、まあ、こういうこと(福島原発事故等)が起きると、そのどさくさに紛れてこういうことを考える輩がいるということです。 | ||